日々小論

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 自分にあったらいいなと思うものの一つに「絶対音感」がある。耳で聞いただけで音の高さを正確に把握できる能力だ。

 カラオケでも音を外さないかが気になる。伴奏なしで正しく歌える天分はうらやましい。

 プロの音楽家でも、楽器に頼らなければ音階を把握しづらい人は少なくないそうだ。「もしかしたら」と所属事務所に尋ねたら、あの人たちも「絶対音感」の持ち主なのだという。

 歌謡漫才の超ベテラン、横山ホットブラザーズ。兄弟3人で楽器を手に、歌としゃべりで笑いを取る。西洋のこぎりをたたいて音を出す「お~前はあ~ほ~か」のギャグは、知らない人がいないほど人気を博した。

 家の日本製のこぎりをたたいても、あの響きは絶対に出せない。絶妙の芸を担当した長男アキラさんが、昨年暮れに亡くなった。思い返すのはインタビューした19年前のやりとりだ。

 音楽ショーの芸人だった父親から徹底して仕込まれたのは、楽器演奏など音楽の素養だそうである。「音符を読める漫才師はわしらぐらいでっせ」。アキラさんはそう話していた。

 実際、アコーディオン奏者だった次男マコトさんが耳にした曲をその場で楽譜にするのを、事務所のスタッフが見ている。三男セツオさんも「耳で聞きながら、すらすら音符に書けるもんね」と胸を張っていた。

 類いまれな天分が芸人としての矜持(きょうじ)でもあったのだろう。

 何が正しく何が誤りか、迷うことの多い時代、人間社会にも「絶対」と言える確かな手掛かりがあればと思うが、残念ながら音楽のようにはいかない。

 取材の最後にのこぎりをたたかせてもらった。修練不足の凡人の手では、「ボン」という鈍い音しか返ってこなかった。

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