日々小論

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 「非常に不思議な人で、なんでこれを書いているのか分からない」。小説家の森見登美彦さんが、ネットで公開された京都大学未来フォーラムで語っていた。不思議な人とは夏目漱石門下の作家内田百●(ひゃっけん)のことだ。

 文章で一つの世界をつくっているだけで、訴えたいこととか、何かの役に立つこととかを書いていない。そこが魅力的で、とても影響を受けたそうだ。

 その百●が没して、きょうで50年となる。

 名随筆として知られる「阿房(あほう)列車」シリーズの冒頭では「なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う」と記している。確かに、「ヒマラヤ山系」と名付けた同行の国鉄職員と雑談したり一献を始めたりするばかりで、鉄道紀行にしては現地の風物や名所があまり出てこない。

 そんな中、印象的な描写がある。「宝石を溶かした様な水の色が、きらきらと光り、或(あるい)はふくれ上がり、或は白波でおおわれ、目が離せない程変化する」

 昭和20年代、肥薩線で熊本県の人吉から八代に向かう列車で見た球磨川の風景だ。しかし、この区間は昨年の豪雨で不通になり、復旧のめどは立っていない。第三セクターのくま川鉄道も全線運休が続いている。

 今月で発生から5年になった熊本地震でも鉄道が被災した。

 三セクの南阿蘇鉄道は全線復旧まであと2年かかる。JR豊肥線(熊本-大分)は昨年8月にようやく開通したが、豪雨はその1カ月前だった。なぜ熊本ばかりに災害が-と地元の人たちは思っていることだろう。

 コロナ禍が去り、肥薩線が復旧して、いつか再び阿房列車の車窓から球磨川の色を眺められると信じたい。百●先生も望んでいるに違いない。

(注)●は間の異体字、「間」の「日」が「月」

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