日々小論

  • 印刷

 なんかへんやなぁ。

 明石市立谷八木小学校で3年生の担任をしていた高橋祐子先生が体の異変に気づいたのは、2年前の暮れだった。

 きっとストレスだ。研究発表会の準備で毎日忙しかった。だが不調は続く。昨年2月、検査をすると腫瘍が見つかった。

 スキルス胃がんだった。若くても発症し、がんの中でも治癒が難しいとされる。

 児童にとって「すごく優しくて、すごく怖い」祐子先生は、小学生から中学生まで3人の子を育てる母でもあった。

 さて、先生はどうしたか。教え子たちに、愛するわが子に、絵本を書いた。

 祐子先生を誘ったのは陶芸家の知人。疫病よけの妖怪を主人公にした絵本を作ろうと、絵を書きためていた。今の先生ならどんな物語にするだろう。

 文章を依頼すると、祐子先生の目がきらっと光った。数日で書き上げて、熊本へ。専門病院で最後の治療に賭けた。

 〈ねえ、しってる? ふかい ふかい うみのそこ〉と書き出される絵本「あまびえさんのおはなし」は、こんな物語だ。

 200年の眠りから覚めたアマビエは、疫病で苦しむ世界を救うため、空を飛んで魔法をかける。みんなが閉じこもり、抱き合ったり、キスしたりできなくなっても、心の扉を開けたらほら、つながれる。〈会えなくても、触れられなくても、心は飛んでいけるんだ〉

 祐子先生は昨年8月、大好きな家族に見守られ、40歳で息を引き取った。絵本を読んだ中1の長女はこう言ったそうだ。

 「お母さんはアマビエさんになったんだね」

 先月、谷八木小で絵本の朗読会があった。空から魔法をかける先生が見えた気がした。

日々小論の最新
もっと見る

天気(6月13日)

  • 26℃
  • ---℃
  • 70%

  • 25℃
  • ---℃
  • 70%

  • 27℃
  • ---℃
  • 60%

  • 25℃
  • ---℃
  • 70%

お知らせ