日々小論

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 神戸・元町商店街の西端に大正時代のレトロな商業ビルが残っている。内部の階段は美術画廊として使われてきた。

 ステンドグラスが飾られた木造の階段を、作品を見ながら上がる。最上部の4階で事務所を訪ね、画廊のあるじに話をうかがったものだ。

 その「トアロード画廊」の石橋直樹さんが3月に亡くなったと、ご遺族からのはがきで知った。がんが再発し、ホスピスに入って1カ月足らずで息を引き取ったという。85歳だった。

 洋画の大家、小磯良平の勧めで大阪の老舗画廊に勤め、神戸のトアロード沿いに自身の画廊を開いたのは50年ほど前。大震災の後に今のビルに移転した。

 作品や画家を評する言葉の数は多い方ではなかったが、的を射る説得力があった。

 「絵に力がある」と若手を褒める言葉は簡潔。「僕にはよく分からん」「少し甘くなった」。伸び悩みや迷いが気になれば遠慮なく指摘もした。

 「これではだめと展覧会を打ち切ったこともある。商売以上に己の審美眼を貫いた、生きざまの激しい人でした」と、後を継ぐ長男宗明(むねはる)さん(58)。

 「わざと露悪的に振る舞っても、内面は繊細で、言動に筋が通っていた」。生前、本人から聞き取り調査をした兵庫県立美術館の江上ゆか学芸員は語る。

 厳しさゆえにあつれきもあったそうだが、近年も児玉靖枝さん、善住(ぜんじゅう)芳枝さん、岸本吉弘さんら、神戸、兵庫ゆかりの実力派作家を送り出した。

 絵を売ること以上に、絵を愛し、美を大切にしたのだろう。「石橋さんならどう言うかな」と今も絵を見てよく考える。

 画商の枠に収まり切れなかった画廊のあるじが、コロナ禍のさなか、静かに世を去った。

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