日々小論

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 事件は社会を映す鏡-とよく言われる。5月、神戸地裁で審理された殺人未遂事件も、コロナ禍が引き金になっていた。

 神戸市兵庫区の住宅街で昨年7月に起きたボーガン(洋弓銃)事件だ。寝ている夫の頭に妻が矢を放ち、その後、包丁で首を切りつけた。夫は命を取り留めたが2カ月の重傷を負った。

 この一家は、30代の夫婦と小学生の兄弟の4人家族。夫の仕事は安定せず、妻がアルバイトなどで家計を支えていた。

 数年前から、夫が暴言や暴力で妻を精神的に支配していたようだ。妻は公判で「夫が怖かった。目を見て話すことができなかった」と証言している。

 事件前、1回目の緊急事態宣言で妻はホテル清掃の仕事を失った。もともと綱渡りだった一家の収入は途絶えた。今日を、明日をどう生きるか。今の生活を終わらせるには、夫を殺害するしかない-。飛躍はあるが、追い詰められ、平常心を失っていく妻の心理が公判で明らかにされた。

 妻はインターネットでボーガンを購入していた。威力が高いのは10万円以上が相場だ。「コロナ給付金(1人10万円)で買った」と妻は証言した。まさか給付金がこんな使われ方をするとは…と驚くが、目の前に突然降って湧いた大金を、妻は「自分が生きるため」に使った。

 何度もためらった揚げ句、妻は目をつぶって引き金を引いた。判決は懲役3年、保護観察付き執行猶予5年だった。温情判決と言っていい。

 コロナ禍がなくても、この夫婦はいずれ破局を迎えていただろう。だがコロナによって破滅が早まり、夫婦の問題は社会性を帯びた「事件」となった。

 鏡に映った私たちの社会の現実から、目をそらすまい。

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