日々小論

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 万国旗がはためく中を群衆が巨大スタジアムの門に吸い込まれてゆく。誰かの携帯ラジオから三波春夫の東京五輪音頭が聞こえてくる。オリンピックの顔と顔/ソレトトント、トトント、顔と顔~。1964年の五輪前の変貌する首都の姿を才気あふれる筆致で描いた作家開高健の「ずばり東京」の一場面だ。自身は開会式の夜に風邪をひき、2週間寝込んだ後、閉会式に出掛けてつづった。

 「私は日本を卑下もしなければ事実に眼をつぶって部分だけ拡大して誇ろうとも思わない。事実を事実として眺めたいと思うだけである。田舎者くさい虚栄を憎むだけなのである」

 このフレーズが半世紀の時を超えて胸に響くのは、新型コロナウイルスの感染拡大の中で五輪が開催されるからにほかならない。競技に全力で打ち込む選手にはただ純粋なエールを送る。菅義偉首相は「安全、安心の大会にしたい」と繰り返してきた。これは本心なのだろうが、感染者数やワクチン接種、変異株の置き換わりを科学的に分析し、現状はどうなのか、納得できる肉声が聞きたい。

 どこか不安であいまいな気分に突き刺さるのが、ノンフィクション作家河合香織さんの近刊「分水嶺(れい)」だ。尾身茂さんや押谷仁さんら専門家会議のメンバーの局面に応じた行動と真意に迫った。「ウイルスは単なる微生物ではなく、社会のありようを映す鏡」。河合さんと話しながら、普通ではあり得ないというパンデミック下の五輪は、日本社会のさまざまな実相をあぶりだしていると感じた。

 最初の東京五輪は高度成長に本格的に突き進むきっかけになった。緊急事態宣言下、無観客で始まった今回の東京五輪はどんな分水嶺になるのだろう。

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