日々小論

  • 印刷

 亡くなったはずの人が生前のいでたちで立ち現れる。いわゆる「幽霊」を見たことがない。あまり見たいとも思わないが、夏は怪談の季節、見た人の話には耳を傾け、涼みたくなる。

 たいていは気のせいだと真剣に取り合ってもらえない幽霊話だが、もし本当に現れたら-。「驚くべき天下の大事件だ」とは作家、正宗白鳥の「幽霊」に出てくる一節である。

 いわく「この世とあの世との境が取れるということは、一国が亡(ほろ)びるよりも重大な事」ではないか、と。確かにこの世に死者が帰ってくれば、世界はひっくり返る。

 振り返れば筆者が子どものころはちょっとした心霊ブームだった。夏休みともなれば、恐怖体験をドラマ化したテレビ番組(「あなたの知らない世界」など)にかじりついたものだ。書店をのぞけば、心霊写真の本をよく見かけた。

 残念ながら今では怪談話で盛り上がることも減り、肝試しなどは遠い昔の思い出。現実社会にはもっと怖いものがあることを大人になって知ったし、当世はインターネットの闇に恐ろしい“お化け”もすんでいる。幽霊、ちょっと寂しそう。

 話はやや異なるかもしれないが、作家の吉村昭さんが亡くなってからの体験を、妻の津村節子さんが随筆に書いていた。

 「外出先から家の近くまで帰って来た時、私は夕闇の中に吉村が立っているのを見て息をのんだ」。そこはいつも吉村さんが津村さんの帰りを待っていた場所だったという。すぐ見間違いと思ったが、別の日には娘さんが「お父さんが立っていた」と涙ぐんで話されたそうだ。

 もうすぐお盆。たとえ幻影でも幽霊でもひと目会いたい。誰にもそんな人がいる。

日々小論の最新
もっと見る
 

天気(10月20日)

  • 19℃
  • ---℃
  • 20%

  • 16℃
  • ---℃
  • 60%

  • 19℃
  • ---℃
  • 10%

  • 19℃
  • ---℃
  • 30%

お知らせ