日々小論

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 たとえば、こんな場面。

 喪服姿の女性がいる。「誰か、なくなったんですか」と問われ、「えぇ、あたくしのお葬式」。そして、酒をグイっと。

 場面は移り、大きく揺れるブランコに女性の声が重なる。

 「ブランコというのはあきらめの悪いタチなのだろう。人がおりてもすぐにはとまれなくて未練がましく(中略)ゆれている。それは、そのままいまの私の気持ちでもあった」

 向田邦子さんのテレビドラマ「家族熱」である。はた目には幸せそうな家族。内にはらむ複雑な心模様を浮かび上がらせ、ああ、うまいなあと思わせた。

 台湾での航空機事故で命を落とし、22日で40年になった。

 不思議な作家、脚本家だとあらためて思う。節目の年というので関連本が書店に並んだ。それがよく読まれていると、紙面にあった。亡くなった後、著書を読み返したくなる作家はいる。しかし何十年たっても作風を慕う人がこんなにもいる。

 作品にうなった一人として、思う。時代、時代で、はやりすたりがある。でも変わらないのは「人」という生き物だろう。やっかいで、けれど、いとおしくて。その「人」を見つめる力、描く言葉が古びない。いつまでも艶やかだ。

 直木賞受賞が50歳。その時、妹へ話した。

 「いくつになってもスタートラインに立てるのよ。私もそうだし、あなたもそうだよ」

 悲報はその1年後である。向田さん、もっと読みたかった。あなたを知りたかった。

 俳優森繁久弥さんの挽歌(ばんか)が墓碑に刻まれている。

 「花ひらき はな香る 花こぼれ なほ薫る」

 「なほ」を「なほなほ」と書き換えたくなる、没40年。

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