日々小論

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 7月に亡くなった益川敏英さんに2013年、京都産業大学の研究室でお会いしたことがある。何しろノーベル賞を受けて「うれしくない」と言い放った人である。「いちゃもんの益川」の異名もある。少し身構えて部屋に入ったが、迎えてくれたのは丁寧で話し好きのおじさんだった。2時間にわたり、ずっと笑いながら話を聞いた記憶が残っている。

 例えば、湯川秀樹博士(1907~81年)の話。この偉大な物理学者に対して、あこがれや敬意を語る科学者は多いが、益川さんが披露してくれたのは葬儀での思い出だった。

 当時、京都大基礎物理学研究所教授で、湯川博士と関係の深かった益川さんは、裏方の仕事を手伝うことになった。ところが、思いのほか暇な時間がある。隣には、同じく手伝いに来ていた異分野の研究者がいた。葬儀のさなか、相手が抱える問題について議論が始まった。「じゃあ、2人で論文を書こうか、となったんだ」。異色の成果が生まれた経緯を語り、「僕は浮気性だから」とニヤッとした。

 ただこれは、笑い話のようで、信念でもあった。

 自分の専門はもちろん、真剣に学ぶ。一方で性質の違う分野についても、その半分くらいの情熱でかじる-。これを「井の中の蛙(かわず)の定理」と呼んでいて、その大切さを著書で述べている。外に出ることで、あらためて井戸、すなわち専門分野の意味や姿に気づくものだ、と。

 科学が細分化されることへの警鐘だったのだろうが、「定理」の名の通り、広く当てはまると感じる。ノーベル賞を受賞した小林・益川理論は難解極まりないが、こちらはよく分かる。益川さんの「業績」の一つに挙げたいと思う。

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