日々小論

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 折に触れて訪ねたくなる場所がある。私にとって、それは司馬遼太郎記念館である。大阪府東大阪市にある作家、司馬遼太郎さん(1923~96年)の自宅に隣接して立つ。今月、開館から20周年を迎えた。

 司馬さんは、普通は庭木としてあまり使われないような雑木を好んだといわれ、自宅の前庭には、その雑木が自然のままに生い茂っている。

 庭を歩く。窓越しではあるが書斎を見ることができる。愛用の眼鏡や万年筆、くの字に曲がった書き物机などが、生前の時のまま残る。手前のサンルームにはソファがあり、資料を読んだり、庭の草木を眺めたりしたという。「日本人とは何か」を問い続けた国民的作家の日常や内面を垣間見た気分になり、いつも離れがたくなる。

 建築家の安藤忠雄さんが設計した記念館は、大書架で知られる。地下から3層吹き抜けで見上げる壁面を約2万冊の蔵書が埋め尽くす。「もう一つの書斎」に圧倒されるが、20年の歳月を感じさせるのは建物前面を覆うように植えられた木々だ。

 安藤さんは記念館の図録に「司馬さんの自邸の前庭と一体となったときが、本当の意味での記念館の完成だと私は考えている」と文章を寄せた。その言葉通り、クスやクヌギ、シイなどの樹木は成長を続け、司馬さんが愛した雑木林になった。

 自宅は庶民の暮らしが息づく住宅街にある。街のざわめきが好きだったという司馬さんは、周辺をよく散歩したそうだ。

 最寄り駅への途中、下町の雰囲気たっぷりの商店街を通る。司馬さんが歩き、コーヒーを飲み、そばを食べたと想像する。それだけで、司馬さんと対話を楽しみ、明日への背中を押される気がするのだ。

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