日々小論

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 旧陸軍に山下奉文という将軍がいた。英軍司令官に「降伏するかしないのか、イエスかノーかで答えよ」と迫った逸話で知られる。

 この話はうそだと、本人は気にしていたそうだ。「威圧的に迫ったりしていない」と。昭和史を追うノンフィクション作家、保阪正康さんの著書にある。

 2人の通訳をした人を捜して確かめると、将軍の言う通り、口調は穏やかだった。だから、と保阪さんは想像する。

 -戦勝報道の過程で脚色されたものだったのではないか。わが山下将軍がギャフンと言わせてやった、とでもいうような。

 戦争には脚色がつきまとう。事実を覆う薄い膜も、塗り重ねれば厚くなる。そのうち事実として独り歩きし始める。

 戦争と向き合い、今年初めに亡くなった作家、半藤一利さんの口癖を思い出す。

 「国民的熱狂というのが、どんなに恐ろしいものであることか」

 その「熱狂」を生んだ一つは当時の新聞だと、半藤さんは批判した。軍部の統制があった時代とはいえ、指摘はきちんと受け止めよう。

 そして、今。

 国会の所信表明演説で、岸田文雄首相は「敵基地攻撃能力」に触れた。この単語を見聞きする機会が増えてきたが、首相が口にすると心拍数が高まる。

 押しとどめようのないうねりが起きないか。熱狂にも似た動きにつながらないか。何より、外交の2文字はどこへ行ったのか、と。

 相場の世界に「冷やし玉(ぎょく)」という用語がある。加熱した相場を冷ます売り注文のことだ。

 どこかに熱狂の芽があれば、冷やし玉を。そんな思いにかられる、日米開戦80年。

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