日々小論

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 「もう時間がない」。先日、北朝鮮による拉致被害者家族会の代表交代を伝える記事を読んで、有本恵子さん=失踪当時(23)=の両親が何度も繰り返してきた言葉が浮かんだ。この10年ほど、父明弘さん(93)と昨年94歳で亡くなった母嘉代子さんをたびたび取材した。

 記事には飯塚繁雄さん(83)に代わり、横田めぐみさん=同(13)=の弟拓也さん(53)が新代表に就いた-とあった。飯塚さんは田口八重子さん=同(22)=の兄で、18日には訃報が届いた。

 昨年は嘉代子さんに続き、めぐみさんの父、滋さんも亡くなった。失踪時に10代から20代だった被害者の両親だけでなく、きょうだいですら高齢となり、活動が難しくなっている。それほど時間だけが過ぎていることを改めて感じた。

 「私の手で解決する」。歴代の首相は繰り返してきた。政治家の中で、早くから有本さん夫妻の訴えに耳を傾けた安倍晋三元首相は、全面解決を政権の最重要課題に掲げた。菅義偉前首相も、岸田文雄首相も引き継いだ。水面下で進む交渉を知ることはできないが、解決の糸口すら見えない状況が続く。

 来月12日、恵子さんは62歳となる。誕生日のたびに、有本さん宅で多くの取材記者と主役不在のテーブルを囲んだ。ケーキと手料理が並び、嘉代子さんは「私が生きているうちに恵子を抱きしめたい」と願った。ろうそくの明かりを見つめる老夫妻には、人生の最晩年を迎えた焦燥がにじんでいた。

 北京冬季五輪を前に、新疆ウイグル自治区の問題など、国家による人権侵害への抗議が各国に広がっている。家族水入らずで祝う誕生会が迎えられるよう、拉致問題にも国際社会の目を向けさせる外交を、と願う。

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