日々小論

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 正月が近づくと、思い出す人がいる。

 ずいぶん前、終末期医療の取材でいろんな方から話をうかがった。ある病院で会った若い看護師は、その1人だ。

 院内の終末期医療の勉強会にもよく顔を出していた。健康を取り戻せた患者を笑顔で送り出せたらいい。看護した側としてもやりがいがあるだろう。しかし病状の厳しい患者はそうはいかない。どうやって気持ちのバランスを取っているのかと尋ねたら、彼女はこんな話をした。

 -燃え尽きてしまったらいけない。だから元日に気持ちを整理する。

 整理?

 -ええ。その時々の思いをきちんと書きとめる。それから新しい1年に踏み出す。

 おぼろげな記憶だが、そんなやりとりだった。感心した。

 年の初めは自分を見つめる日、決意の筆を執る日。彼女は今も元日の一文を書いているだろうかと、この時期になるとつい思い出す。

 作家落合恵子さんも毎年1月1日に遺言を書き改めると、1年余り前の週刊文春で語っていた。営む書店も元日は休みだ。年初の1日を使って自分と向き合い、新しい年をどう生きるかを考え、内容を更新する、と。

 「切り火」という言葉が浮かぶ。火打ち石で身に打ちかける火花のことだ。旅に出る前、カチカチッと打って清め、道中の無事を祈ったりする。とすれば元日の一文は、心の切り火か。

 コロナ禍で暮らし向きが厳しくなった方は少なくない。収入が絶えたとの嘆きも聞く。でも、でも、前を向きたい。

 紹介した2人だけではないだろう。心の切り火を打ちかけ、新しい年へ向かう方がきっとあちこちに、と師走に思う。

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