日々小論

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 古代中国の悪習に「殉葬(じゅんそう)」がある。君主が死亡すると、家臣や妻らも埋葬された。死後の不便や寂しさを除くためとされるが、当時から批判が多かった。そこで登場するのが兵馬俑(へいばよう)だ。兵士や馬をかたどった人形で、生者の代わりに埋められる。

 京都市の京セラ美術館で開催中の展覧会「兵馬俑と古代中国」を見に行った。秦(しん)の統一王朝の展示室に入ると、長身の兵士と目が合う。ひそめた眉や結んだ口が実にリアルだ。身代わりゆえ、生身に近い必要があったのだろう。その後、俑は小型化していった。

 26人が犠牲になった昨年12月の大阪・北新地ビル放火殺人事件は、容疑者の男が大勢の人々を巻き込んだ「拡大自殺」だったとされる。亡くなったのは診療内科クリニックに通っていた患者と院長らで、男もここで診療を受けていた。容疑者の死亡で真相は未解明のままだ。

 近年、自殺願望のある容疑者が第三者を無差別に殺傷する事件が相次いでいる。自分の死に多くの人を従わせようとする理不尽さでは、2千年以上前の中国の故事と同じだ。

 大阪府警は、男の劣等感が動機となった可能性を指摘する。事件当日は、休職から復帰を目指す「リワークプログラム」に取り組む患者が来院していた。前向きに頑張る人たちを一方的にねたみ、凶行に及んだのだとしたら、何ともやりきれない。

 患者たちは自身の回復に必死で、事件に巻き込まれるなど考えもしなかっただろう。なぜ身勝手な理屈が持ち込まれたのか、公判で説明を聞きたかった。

 男は、前科があるため再就職が困難で、生活保護も断られたという。命の「優劣」をつけないセーフティーネットこそが、再発防止の鍵といえる。

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