日々小論

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 その言葉を初めて知ったのは、学生のときだから30年ほど前になる。留学先の米国の大学で、学長が出した緊急メッセージにあった。「『モロトフ・カクテル』を冗談半分で作り、投げた愚かな学生がいる」

 掲示板の文面に「何のカクテル?」と首をひねった。辞書を引いて驚いた。モロトフ・カクテルとは火炎瓶のことだった。週末に酒に酔った男子学生たちが火炎瓶を投げ合ったといい、全員停学となった。

 すっかり忘れていた過去の出来事を思い出したのは、数週間前にニュースでモロトフ・カクテルという言葉を耳にしたからだ。ロシアの侵攻を受けるウクライナからの報道に、この単語は頻繁に登場する。

 「弱者の武器」ともいわれる火炎瓶を、ウクライナ各地で一般市民が自作し、ロシア軍の戦車に備えている。10代とみられる男性は「正直怖いが、やるべきことをやるだけ」とメディアに語り、ビール瓶に灯油か何かを詰めていた。本来なら学生生活を謳歌(おうか)していたはずだ。

 どこかレトロな響きを持つモロトフ・カクテルの呼称は、スターリン政権下のソ連外相の名前に由来するとの説がある。

 1939年、フィンランド侵攻を国際社会から批判されたソ連のモロトフ外相は「爆弾ではなく食料を投下している」と言い張った。そのためフィンランド人は「食料への返礼の飲み物」との皮肉を込めて火炎瓶をモロトフ・カクテルと呼び、ソ連軍の戦車に投げつけたという。

 時計の針を巻き戻したかのように、軍事大国の為政者がうそと強弁を繰り返している。ウクライナの人々に、どうか生き延びてと切に願う。同時に、平和や自由を守ることの過酷な一面を痛感せずにはいられない。

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