日々小論

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 バンド演奏の途中、知らずに自分のテンポだけが他の人よりも速くなる。音楽で「走る」と呼ばれる不調和状態だ。

 音楽学校が舞台の米映画「セッション」では、ジャズドラマーを目指す主人公の若者を、教師が鬼の形相で罵倒していた。いくら指導しても「走る」くせが抜けないからである。

 実際、プロでも先走らないよう気を付けているらしい。特にドラムはバンドのリズムをつかさどる。それが揺らげば演奏が台無しになりかねない。

 だからだろう。昨年亡くなった英国のロックバンド「ローリング・ストーンズ」のドラマー、チャーリー・ワッツさんは、ステージでは努めて遅れ気味にたたいていたそうだ。音楽評論家がどこかで紹介していた。

 ロックのコンサートでは会場全体が熱くなる。激しい曲はより激しく、速くなりがち。テンポを微妙に抑えることで乱れを防ぐ。リズムが安定すれば、観客だって心地よい。

 沸き立つ鍋の湯をちょっとだけ静める水のような役割を、ワッツさんは担っていたのだろう。ドラマーの冷静な居住まいが、世界的なバンドのステージを支えていたと言える。

 ここに来て時代のテンポが速くなってきた。「まさか…」と思った戦争が起き、エネルギー不足や物価高などの形で私たちも大きな渦に巻き込まれる。

 政界では、安全保障を理由に核兵器を米国と「共有」しようという声まで出始めた。世の中が「走る」気配を見せたときこそ、一呼吸置いて考えたい。

 ワッツさんは「必要なだけきっちり演奏し、行き過ぎも不足もなかった」と音楽仲間に信頼された。不足だけでなく、全体の行き過ぎを戒めるドラマーのような存在が、今は必要だ。

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