日々小論

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 山下京子さんが亡くなってから6月で5年になる。1997年の神戸連続児童殺傷事件で長女彩花(あやか)さん=当時(10)=を失った母親だ。深い悲しみの中、著書や講演で生きる意味を訴え、多くの人に感動を与えた。

 11年前、本紙の子ども新聞「週刊まなびー」の特集で山下さんを招き、中学2、3年生の取材に応じてもらったことがある。企画はうまくいった。でも、今でも顔が赤らむ失敗をした。

 質問は生徒自身が事前に考えた。「山下さんを傷つけないだろうか」と、悩みに悩んでいたことを思い出す。その気持ちが伝わったのか、山下さんも全力で言葉を返してくれた。

 「社会や私たちがどう変われば事件を防げますか」「みんなが死を起点にして生きる意味を考えれば、変わると思う」

 「中学生に何を伝えたいですか」「苦しくつらい時は、絶望の中でも生き抜いてきた私が、みなさんにエールを送れることを思い出してください」

 緊迫したやりとりが終わり、最後に感想を求めた。ある女子生徒は「山下さんの言葉は重くて深くて、優しさも感じた」とお礼を言った。次の人に発言を求めようとすると、山下さんが鋭く制した。「待って。この子はまだ何か言おうとしている」

 女子生徒は泣き始めた。「被害者の気持ちを考えたことがなかった。生きているのは当たり前じゃないと思った」。山下さんは深い共感に感謝し、生徒を慰めた。その場にいた全員が心打たれる光景だった。

 私は一体、何をしていたのだろうか。声の調子、伏せた目、動きだしそうな口もと。何も気付かず、予定の時間に気を取られていた。山下さんの感受性に少しでもあやかりたい。事件の節目のたび、肝に銘じている。

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