「世界デビューおめでとう」
主催者から祝福の言葉をかけられ、思わず笑みがこぼれた。
デジタル地図をつくる国際プロジェクト「オープンストリートマップ」のイベントに初めて参加したときのこと。神戸市内の施設の情報をパソコンで入力した。登録更新すると、入力者のハンドルネームを含む編集履歴が残る。インターネットで無料閲覧できる世界地図の編集者として、デビューを果たしたわけだ。
オープンストリートマップは2004年に英国で生まれた。いわばネット百科事典「ウィキペディア」の地図版。誰もが参加でき、自由に使える。地図データはヤフージャパンやインスタグラム、ゲーム「ポケモンGO(ゴー)」で採用されるなど、商業利用も広がる。しかし本来の目的は、車いすで行ける施設情報を集めたバリアフリーマップづくりなど、市民のために市民がサービスを創造することだろう。
ロシアのウクライナ侵攻後、オープンストリートマップを活用した多彩な地図が誕生した。知人は、同国の象徴的な建築物や記念碑を表示し、ウィキペディアの説明を読むことができるウェブアプリを開発した。ポーランドでは、避難民の受け入れ場所と、ウクライナ語の名称を登録する取り組みが進む。
一方で、戦争が影を落としてもいる。同マップを活用するウクライナの組織は先日、同国の地図情報の更新を自制するよう世界に求めた。情報戦をあおることになるとの理由からだ。
どんな情報を掲載すれば、ウクライナの救いになるのか。世界中に知恵を絞る人たちがいる。善意の地図づくりを自由に行える平和が、一刻も早く戻ることを念じてやまない。
