「あきさみよー!」。5歳の娘が口にした言葉に、思わず目を丸くした。驚きや悲しみを表す沖縄の島言葉である。
放送中のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」。米国統治下の沖縄に生まれたヒロインが料理人を目指す物語だ。
タイトルの「ちむどんどん」は「胸がワクワク、ドキドキする」の意味。島言葉が字幕もなく使われているのを見ると、本土のお茶の間でもおなじみになっていることが分かる。
私が、今回の朝ドラから連想した言葉は「ちむぐりさ(肝苦りさ)」だ。この言葉に初めて出会ったのは、灰谷健次郎の小説「太陽の子」だった。
大型連休中、三十数年ぶりに読み返した。小説の舞台は沖縄戦から30年後の神戸。小さな琉球料理店を営む沖縄出身の家族と、そこに集まる人たちの厳しい現実が描かれる。
沖縄出身者の孤独死を報じる新聞記事を巡り、地元の人と沖縄出身者が口論になる。「沖縄には、かわいそうなんていうことばはないんじゃ」「肝苦りさ(胸が痛む)か」「口先だけでかわいそうやなんていうてる奴ほど、痛いこともかゆいこともなんにも感じていない奴や」
肝(きも)が苦しい。単純にかわいそう、という意味ではなく、「あなたが悲しいと、私も悲しい」という共感の言葉。不思議と優しい気持ちにもさせてくれる。
「基地のない平和な島」を望み、日本に復帰した沖縄。半世紀を経た今も米軍施設の集中は解消されず、民意に反する新基地建設が強行されている。戦争は本当に終わっているのか。
人の悲しみや苦しみを、心の奥底から自らの痛みとして感じる。本土の私たちに欠けているのは、この「ちむぐりさ」なのかもしれない。
