日々小論

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 2020年12月に95歳で亡くなった元神戸大学長、新野幸次郎さんの追悼集が先日届いた。

 タイトルの「学海無涯」は、退官後、長く務めた神戸都市問題研究所の理事長室に掲げていた言葉で「学問という海は限りがない」との意。唐の詩人韓愈(かんゆ)の詩の一節で「苦労して舟を作り渡っていくしかない」と続く。努力を積み重ねることの大切さを説いた句とされる。

 それを実践するように退官後も約30年間、ゼミ卒業生とともに年4回の読書会を続けていたと知り驚いた。扱った本は100冊近く、大半が新刊書だったという。常に新しい知見から学ぼうとする姿勢が教え子を引きつけたのだろう。追悼行事委員会事務局の和田義次さん(78)は「難解な論文も、先生の解説を聞くとよく理解できた。お話が面白くて、仕事で忙しい時期も続けられた」と振り返る。

 思えば阪神・淡路大震災後、官民を問わず復興の在り方を議論する主な会合には、必ずと言っていいほど新野さんの姿があった。自身が深く関わってきた神戸を壊滅させた大災害からも学び、社会に必要なものを見いだそうとしていた。

 取材に対してはいつも柔和な表情で、つたない質問にも粘り強く応じてくれたことを思い出す。教え子でなくても「先生」と呼びたくなるお人柄だった。

 追悼集には、病床で執筆された遺稿も掲載された。自らの「死」と向き合いながら、コロナ禍に覆われた混沌(こんとん)の時代に新たな社会の基軸が必要だと説く。その論考にあたり「研究者なら孫引きは絶対にいけない」と、実存主義哲学の巨匠ヤスパースの大著を読了した、とある。

 学びの海にこぎだすのに遅すぎることはない。そう教えられているような気がした。

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