日銀神戸支店は毎月、兵庫県内の経済情勢を分析し、公表している。
スーパーや家電量販店の販売動向、輸出や鉱工業生産などの統計データに加え、独自に経営者から生の声を聞き取って判断に生かす。兵庫経済の現在地を知るには、最も信頼性の高い分析資料といえる。
5月の発表で「おや?」と感じた。4月に比べて県内経済は好転していると、基調判断を上方修正したのだ。新型コロナによる行動制限の解除で飲食や宿泊業が活性化し、ものづくりの現場も稼働率は高いという。
ロシアのウクライナ侵攻や円安の影響で、身の回りでは値上げが相次ぐ。好物のカツサンドは1割上がり、近所のガソリン価格は1リットル160円台後半で高止まり。自分の財布は引き締めモードで、取材先でも「利益が出ない」と悲観的な声を聞く。
分析結果と肌感覚の差は何なのかともやもやしていると、金融関係者が解説してくれた。いわく「企業業績は昨年にも増して、二極化している」。
いい企業もあるのだが、一定のラインを越えると厳しい企業が多い。分かれ目は企業の規模や業種だという。「売上高1兆円超の大企業から数千万円の中小企業まで、全企業の業績を足し合わせると、そんなに悪くないってことです」
5月中旬、神戸の下町にある町工場を訪ねた。阪神・淡路大震災で押しつぶされた工場を再建した社長は「今が一番厳しい」とつぶやいた。震災は大変だったが、まだ仕事はあった。「コロナ禍で社会が一気に変わり、仕事は激減した」という。
コロナの影響が続く中、業種や規模による二極化が猛スピードで進む。統計に表れない現実が、すぐそばにある。
