すぐれた知識人の手にかかれば、タコをとるつぼから日本が見えてくる。
タコが穴に入る習性を利用して、海底に沈めたつぼでタコをとるのがタコつぼ漁である。ロープでつながってはいるものの、一つ一つのつぼはバラバラになって海底にある。
戦後を代表する知識人の一人、政治学者の丸山真男さんはそこから、「日本はタコツボ文化」と表した。もう60年ほど前のことだ。
学問も文化も社会のありようも縦割りになって、「その集団の内部だけで通用するものの考え方感じ方が発生し、しかもだんだん沈殿してくる」。名著「日本の思想」でそう説いた。
官僚政治がそうだと、どなたかが書いていた。なるほど、静岡県熱海市で起きた大規模土石流災害があぶりだしたものを見れば、行政の風土もまた、タコのつぼである。
2週間前、土石流がなぜ起きたかを検証する静岡県の第三者委員会が、最終報告書を公表した。盛り土造成をめぐる県と市の対応、連携不足を「失敗」と言い切っている。ここまで断言するのも珍しい。
問題になった盛り土造成の面積をめぐり、県の担当だ、いや市がすべきだと押しつけ合っていた。そうこうするうち、土地の所有者は代わり、やがて大惨事が。責任は重い。
職員から不満が出るデジタル庁も似たようなものだ。省庁出身者と民間出身者の融合が進まず、垣根を越えて一つになれない。つぼから出てこないようでは、大きな仕事はできない。
タコがつぼから出てこなかったら濃い塩水を、と何かで読んだ。「濃い塩水」を「世論」と言い換えてみたい。と思いながら、小文を書いている。
