日々小論

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 沖縄県の糸満市を訪ねたのは本土復帰から10年ほどの頃だ。民家が密集する集落の中に、ところどころ空き地がある。隅にはコンクリートブロックの小さなほこらが。「一家全滅の跡です」と地元タクシーの運転手さんが教えてくれた。

 戦争末期、家族全員が米軍の攻撃で犠牲になった家屋の跡地だという。「艦砲射撃の砲弾が直撃した家は、みんな一度にやられました。そんな場所が村のあちこちにありますよ」

 朝夕に食卓を囲んで談笑する人々の息づかいがあったその場所に、何もない。「全滅」という言葉の衝撃を受け止めきれずにしばらくたたずんだ。

 沖縄の言葉では「チネードーリ」と言うそうだ。「チネー」は「家族」や「家」、「ドーリ」は「倒れる」。沖縄戦で最後まで激戦が続いた糸満市の「チネードーリ(一家全滅)」は440世帯に上り、全戸数の4分の1が消滅した地区もある。

 地形が変容するほどの米軍の猛攻は「鉄の暴風」と呼ばれた。見境なく降り注ぐ砲弾や爆弾がどこに落ちたかで、住民の運命は無慈悲に分断された。

 別の空き地では、誰が手向けたか、線香が煙を立てていた。血縁者や地域の人たちが折々に犠牲者を追悼しているのだと聞き、胸の奥が熱くなった。

 沖縄の写真家、大城弘明さんが戦後70年を機に出版した写真集「鎮魂の地図」(未来社)でチネードーリ跡の現状を伝えている。ほこらを改築してドアを取り付けるなど、今も多くが大切に保存されているという。

 「全滅」の悲劇が相次いだのは、日本軍が組織的な戦闘を断念する直前の時期だった。無念や悲嘆、怒り、悔恨、哀悼…。さまざまな声なき声を、空き地は伝えているように思える。

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