日曜小論

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 車が行き交う国道43号から南へ少し入ったところに、「宮水発祥之地」と刻まれた碑が立っている。西宮市南部のこの地域には、灘五郷の名だたる酒蔵の井戸が点在する。

 江戸時代の酒造家・山邑太左衛門(やまむらたざえもん)が、西宮で造られる酒のうまさの秘密は仕込み水にあると発見した。それが「宮水」と呼ばれるようになったとされる。

 三つの伏流水のブレンドされた地下水が宮水だ。奇跡のような条件が重なり、日本酒の発酵を助けるカリウムやリンがふんだんに含まれ、大敵の鉄分が少ない。

 その宮水を守ろうと、西宮市が保全条例を制定し、きょうから運用される。

 きっかけは、マンションなどの開発が増えていることだ。これまで市は、開発業者に宮水の流れを妨げないよう「灘五郷酒造組合」(神戸市)と事前に工法を協議するよう依頼してきた。この20年で約400件が協議された。

 だが協議をせずに工事を進めるケースが近年増えており、条例化に踏み切った。

 事前協議を義務化するが、罰則は設けていない。あくまで開発と環境の保全を両立させるためだという。

 長い歴史の中で、宮水は何度もピンチに陥っている。明治末から大正にかけては、西宮港の修築工事で海水が混ざった。昭和9年の室戸台風では、高潮で一帯が浸水した。取水できる地域は変わってきているものの、市南部の約500メートル四方でこんこんと湧き出て、今なお灘の酒造りを支えている。

 親子2代にわたり宮水保全に尽力している宮水保存調査会(西宮市)の顧問済川(すみかわ)健さんは、条例化を「宮水を広く知ってもらうきっかけになれば」と期待する。

 阪神・淡路大震災では水道が使えず、宮水井戸が開放された。文字通り被災した市民の命の水となった。

 日本酒は世界に誇る文化だ。酒造りに欠かせない「宝」の宮水を守っていきたい。

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