日曜小論

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 いまや暮らしに欠かせない飲み物にコーヒーがある。家では気軽にインスタントが飲め、街では喫茶店を押しのけるようにチェーン店が進出し、いつだって自動販売機で缶コーヒーを買える。

 神戸はコーヒーとのかかわりがとりわけ深い。明治期に神戸港へ豆が輸入され、日本茶の「放香堂」が初めてコーヒーを提供したとされる。

 ブラジルのコーヒー園で働いた移民が、神戸から出発したこともその一つだろう。781人の移民を乗せた「笠戸丸」が、神戸港を出たのが1908(明治41)年4月。2カ月の船旅の後、過酷な環境に立ち向かった。

 移民は過剰人口対策のための国策だった。拠点として28(昭和3)年、「国立神戸移民収容所」(現海外移住と文化の交流センター)がつくられ、閉鎖されるまでの43年間で25万人を送り出した。

 「神戸港は雨である」と石川達三が描いた「蒼氓(そうぼう)」は、ここで言語や風習を学びブラジルへ渡る移民の姿を描き、第1回の芥川賞を受賞した。

 コーヒーの普及に貢献したのが水野龍(りょう)だ。最初の移民船の団長を務めたことで、ブラジル政府から無償で豆の提供を受けた。この豆を使って「カフェーパウリスタ」を設立。店は全国に広がった。

 神戸ではトアロードに店を構えた。「神戸とコーヒー」(神戸新聞総合出版センター編)によると、2代目の店舗は地下1階、地上3階のビルで、大理石を使ったモダンな建物には、外国人やハイカラ好きな地元民が訪れたという。JR元町駅南のその場所には、今も「パウリスタ」の名をとどめるビルが立つ。

 収容所はトアロードの北端にあった。旅立ちの日、移民は船に乗るため坂道を下り、パウリスタの前を通って港へ向かったのかもしれない。

 あす18日は最初の移民がブラジルに到着して110年。コーヒーを味わう際には、異国で未来を切り開いた先人に思いをはせたい。

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