日曜小論

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 〈ああ ぎゅっとにぎりしめると/白い粉が 風に舞う/お母ちゃんの骨は 口に入れると/さみしい味がする〉

 代表的な原爆詩「ヒロシマの空」の一節である。俳優の吉永小百合さんの朗読でご存じの方も多いだろう。

 この夏、大阪市や姫路市など近隣にある平和資料館を巡っている。令和最初の8月を迎え、戦争について改めて考えてみたいと思ったからだ。

 西宮市平和資料館で、空っぽの骨壺(こつつぼ)を目にしたときのことだ。戦死し、何も入っていない骨壺だけが帰還したという話はよく聞くが、実物に接するのは初めてだった。誰かが寄贈したのだろうが、詳しい来歴の説明はない。

 戦地で父親を失った子の涙を連想した。骨壺を抱き、嗚咽(おえつ)する妻の姿が見えてきた。先の戦争では、愛する肉親との耐えがたい死別が数え切れないほどあった。そのことが強く身に染みた。

 「ヒロシマの空」を最初に一読し、あまりの切なさやむなしさから大きな衝撃を受けたことを思い出す。心に深く刻まれ、ふとしたことで記憶の表層に浮かび上がる。

 作者の林幸子さん(1929~2011年)は広島の工場で被爆した。父親と自宅跡を掘り返し、変わり果てた母親と弟と対面した。翌月、放射線にむしばまれていた父親も亡くした。約5年後、その体験を詩にしたためた。

 74年がたっても世界で戦火がやまない。内戦下のシリアでは先日も空爆で多くの市民が犠牲になった。これ以上、悲嘆に暮れる家族を増やしてはならない。

 林さんは120行に及ぶ詩を次のように締めくくる。

 〈涙を流しきった あとの/焦点のない わたしの からだ(略)うつくしく 晴れわたった/ヒロシマの/あおい空〉

 戦争の過酷な真実を伝えるこの作品の全文を、どうか世界中の人々に読んでもらいたい。きっと何かが変わると信じている。

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