正平調

時計2019/05/25

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小説で書きたいのは「人間の優しさね」と作家の田辺聖子さんが以前、本紙で語っている。相手をどう慰めようか。言われてうれしい言葉は何か。気遣い合ってこその人間なのだから、と◆見知らぬ年配の男性に「どうしたの?」、そう声をかけられたという。沖縄が舞台の、まるで小説のような、本当にあった物語である。高校2年の崎元颯馬(そうま)さんがモノレール内で財布をなくしたことに気づいた◆財布には、伯父の葬儀に行くための往復の飛行機代が入っている。失意にしょげかえり、頭を抱える崎元さんに声をかけたのが、たまたま居合わせた埼玉県の猪野屋(いのや)博さんだった。話を聞き、6万円を差し出す◆地元紙によると、68歳の猪野屋さんは「あまりに悲しい顔だったので貸すことに決めた」、だまされてもいいと思ったそうだ。名乗らぬまま彼とは別れたが、その後、自分のことを探していると記事で知り「感激して泣けてきた。信じてよかった」とも◆田辺さんの小説に、こんなくだりがある。自分ではどうすることもできない苦境に陥り、人生が行き詰まったかにみえたときでも「神サンはちゃんと、『この道抜けられます』の札を吊(つ)るしておいてくれてる」◆その札の存在を教えてくれるのが、人間の優しさなのだろう。2019・5・25

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