正平調

時計2019/08/06

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行方の知れない夫を捜すために、妻はこの世の地獄と化した広島の町を歩いた。その途中、息の絶えかけた見知らぬ男性に声をかける。「名前を言いんさい。書いといたげますけえ」◆道を、川を埋める遺体はどれもひどい姿でだれがだれかも分からない。せめて家族のもとに返してあげたいと、とっさに考えたのだろう。当時40代のその妻もしかし、自分の夫と再会することはかなわなかった◆証言集「原爆に夫を奪われて」(神田三亀男(みきお)編)に収められている。あの日、近くの農村から広島市の建物疎開作業に駆り出された義勇隊の約200人が亡くなった。証言集は残された妻たちの聞き語りである◆まだ息のあった夫を戸板に乗せ、村まで連れ帰った女性は振り返る。「その重かったこと。苦しい思いが、目方にもなったのじゃろうか。それで、あがあに重たかったのじゃろうか」。いまも手に感触が残ると◆証言は戦後35年のころに語られている。あれから倍以上の歳月が流れたのにどうしたことか、このところ「核廃絶」はおろか「軍縮」さえ時計の針を逆に回すかのようなニュースばかり聞こえてくる。被爆地の心は嘆きと怒りの目方で耐えかねていよう◆原爆の日がめぐる。核兵器のない世界を求め続けて、74年がたつ。2019・8・6

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