正平調

時計2019/08/14

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「日本は負けちゃったから、戦争が流行(はや)らなくなったんだよね」。淡々と言うと、その人は両腕を組んで遠くを見た。いや、組んだのは右腕と左袖だ。左の袖の中に、あるべき腕はなかった◆水木しげるさんが亡くなって4年。取材したのはさらに8年前、彼が85歳の時だった。もう12年もたつのに、あの言葉の意味を今も考え続けている◆では、日本が勝てばよかったというのか。そう問い返すことはできなかった。水木さんの声は優しかったけれど、ひりつくような痛みを帯びて聞こえたから◆太平洋戦争中に南方で爆撃に遭い、左腕を失った水木さん。漫画「総員玉砕せよ!」では、仲間がみじめに死んでいく戦場をリアルに描いたが、声高に反戦を叫ぶことは決してなかった。なぜ?◆「総員-」のあとがきで、水木さんは述べている。「戦記物をかくと、わけのわからない怒りがこみ上げてきて仕方がない」と。「戦争反対」や「世界平和」という言葉は力強いが、水木さんが体験した生き地獄を伝えるには足りなかったのだ。だから、戦争を知らない記者に「わけのわからない」謎を残して逝ったのか◆敗戦から74年。勝とうが負けようが、妙なものは流行らなくてよい。品のない風俗も、悪い病気も、むごたらしい戦争も。2019・8・14

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