正平調

時計2019/08/17

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6畳一間の貧しい暮らしで、私立中学を受験したいと言って困らせた。それでも合格後には「えらい、えらい」と泣いて喜んで、国語、英和、漢和の大辞典を買いそろえてくれたという◆作家の浅田次郎さんが随筆に書きとめた母との思い出である。学徒動員で学ぶ機会を奪われた母は「私に何ひとつ教えることができなかった。三冊の辞書には言うに尽くせぬ思いがこめられていたのだろう」と◆73歳でその母が亡くなったとき、ひとり住まいの書棚には浅田さんの全著作とともに、小さな国語辞典とルーペが置かれていたそうだ。たとえ故人はしゃべらなくても、残された品々がすべてを語るときがある◆今週の本紙イイミミには、兄の初盆を迎えたという女性の話があった。お供えのスイカを見て、そういえば井戸で冷やしてよく食べた、兄は早食いだったと、胸によみがえった夏の昔日のことを寄せておられた◆遺品や懐かしのものを眺め、手にとっては亡き人の声を心に聞く。今年のお盆は台風に気をそがれつつも、皆さんそれぞれに静かな対話のときを過ごされたことだろう◆気づけば8月もはや折り返しの道にある。〈秋立(たつ)や声に力を入れる●〉(井上井月(せいげつ))。あらん限りの力を振り絞って今を生きる命の声に耳を澄ます。2019・8・17

※●は蝉の異体字

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