正平調

時計2019/10/16

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円山川の堤防が決壊し、豊岡市の一帯が水につかった。上空からの写真に息をのんだのは2004年10月、台風23号が過ぎ去った直後である。作家の高井有一さんはそれをテレビで見た◆昔、友人の家を訪ねたことがあったそうだ。大丈夫だろうか。高井さんの著書にある。町の記憶はおぼろげでも「無人の水の拡(ひろ)がりのなかから、親しげに、和やかに話す人の声が聞(きこ)えて来るやうな気がした」と◆人々が和やかに暮らしていたはずの町が、泥海のように水に浸っている映像を見た。家族の笑い声が響いていただろう家が土砂につぶされている写真を見た。台風19号の爪痕は深く、被害の全容はなお知れない◆コースから離れた兵庫でさえ恐ろしく感じた強い雨風だった。“最強台風”という注意喚起もあり、だれもがそれなりの用心で構えていたに違いない。それなのに、である。増えゆく死者の数にがくぜんとする◆台風が巨大化している。これも温暖化のせいだという。千曲川、多摩川、阿武隈川…。名のある川も含め、氾濫は同時多発的に起きた。「もうムリだ、こらえきれない」。そんな列島の悲鳴を聞いた思いがする◆まだ安否の分からない人がどうか早く見つかりますように。命が踏ん張ることのできる時間は残り少ない。2019・10・16

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