正平調

時計2019/11/06

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書き上げた原稿を手にうとうとしていたら、病床の妻が目を覚ましてこちらを見ている。「読もうか」。声をかけ、彼女がうなずいたところで目が覚めた。妻はまだ眠ったままである◆楽しい創作話で心が明るくなれば、病ある身にもよいのではないか。作家の眉村卓さんが妻・悦子さんのために1日1話の短編を書き始めたのは、悦子さんにがんが見つかり、余命1年を告げられてからである◆冒頭のシーンは1775話目に出てくる。昏睡(こんすい)状態に陥った妻が目を覚ます夢を何度だって見たいと男は願う。いつか夢ではなく現実になるかもしれない、と。祈るようにつづった渾身(こんしん)の“創作”であったろう◆眉村さんが85歳で亡くなった。本紙「随想」で「馬鹿話」と題された原稿を読んだのはつい10日余り前のこと。最後にクスッと笑わせ、深くうなずかせもする。次作を楽しみにしていただけに寂しくてならない◆ベストセラーとなった「妻に捧(ささ)げた1778話」(新潮新書)は映画化もされた。1日1話の心の栄養剤がきっと効いたに違いない。それからの5年を穏やかに生きて悦子さんは67歳で旅立った。伴侶にあてた最終回を眉村さんは次のように結んでいる◆「また一緒に暮らしましょう」。いま返事を聞いている頃だろう。2019・11・6

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