正平調

時計2020/02/12

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高校の3年間でホームランは1本だけ。甲子園にも出たことのない自分がどうすればプロ野球選手になれるか。野村克也さんは授業そっちのけで、すべての球団の選手事情を調べ上げた◆自分の守備位置である捕手にベテランが多く、そろそろ世代交代しそうなチームならばチャンスがあるとにらみ、南海の入団テストを受ける。データ重視の“ID野球”はこのころを起源とするのかもしれない◆すぐに芽は出ず、1年でクビを宣告されるも「タダでいいから置いてください」と頼み込んだ。もし球団が根負けしていなければ月見草はひっそりとも咲かず、日本のプロ野球史は全く違ったものになったろう◆長嶋茂雄さんをうらやんだ野村さんらしい挿話がある。「俺を見に来てくれるお客さんのためにも休めない」。そう語る長嶋さんに感心しつつ寂しくもなった。「自分を見に来てくれる客なんているのかな」と◆いいよな、日の当たる人気者は-当時もぼやいていたのだろう。機知と毒をたっぷり含んだ野球談義をもう楽しめないかと思うと寂しい。野村さんが84歳で亡くなった◆最愛の妻、沙知代さんに先立たれたあとは、暗い自宅に帰るのがつらくて電気をつけたまま外出していたそうだ。いま球界も大きな明かりを失った。2020・2・12

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