正平調

時計2020/03/15

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病死した父の遺骨と一緒に日本の土を踏んだのは、9歳のときだった。引き揚げ船からながめた景色は湿地に見えたそうだ。それまで住んでいた旧満州(中国東北部)とまったく違う◆劇作家別役実さんである。日本の演劇界に不条理という新しい風を吹き込み、このほど82歳で亡くなった。兵庫県立ピッコロ劇団で代表を務めていた方だから、教えを受けた演劇関係者は県内でも少なくない◆記事や資料を読み返して思うのは、引き揚げ体験の重さである。演劇は「引き揚げ者の僕に向いている」。週刊文春の誌上で、そんな話をしていた。母国で疎外感を抱いた少年のまなざしが、不条理劇につながる◆引き揚げを知る一人、作家なかにし礼さんのことを思う。流れ流れて着いた日本が自分の国と思っても、生まれた地から引き離されたような「流離の憂(うれい)」は消えない。これが引き揚げ者の思いと、著書に書く◆電信柱、バス停の標識、ベンチ、枯れ木、リヤカー…。一目で別役劇と分かる舞台にどこからか人が現れ、出会い、とりとめもない会話を重ね、何かが起き、やがて去る。これも「流離の憂」だったかもしれない◆リヤカー。別役さんは自身の荷台に何を載せていたのだろう。「昭和」、あるいは「戦後」という名の荷か。2020・3・15

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