正平調

時計2020/08/15

  • 印刷

ふるさと但馬を離れ、軍隊に身を置いたある兵士は日記に書いている。「ああ、なつかしい故郷。老いた母さんの姿が思い出される」。いまごろは農作業や養蚕に忙しいことだろうと◆私の無事をきっと祈ってくれている「なつかしい優しい私の母さん」。「どのような話でも黙々と面白がって聞いてくれた私の母さん」。よほど会いたくなったのか、一字一句に「母さん」への慕情があふれる◆マレー半島で戦死したというその兵士の筆録を「但馬戦没兵士の手紙」(岡弘著)で読む。そこには但馬地域から出征して亡くなった若者たちの遺稿が収められている◆おのおのの目に浮かぶ郷里の四季を彼らはつづった。「カエルの声を聞くさえも、むし暑い田舎を思い出す」「もうこのごろは、稲刈りの最中だろうな」「楽しきお祭りの日も過ぎましたね」。恋しかったろう◆75年前の8月15日、国民に終戦が知らされた。確かに国家や軍部の戦争は終わったかもしれないが、それでわが子の帰りを待ちつづけた母の戦争は終わったか。故郷の土を踏めなかった兵士の戦争は終わったか◆〈降伏の日を知らぬまま奪はれしいのち思へと蝉(せみ)鳴きしきる〉(栗木京子)。ふるさとの山川に、きょうもせみ時雨は降りしきるだろう。命思え、と。2020・8・15

正平調の最新
もっと見る

天気(11月1日)

  • 21℃
  • 13℃
  • 20%

  • 21℃
  • 7℃
  • 30%

  • 23℃
  • 11℃
  • 10%

  • 22℃
  • 10℃
  • 10%

お知らせ