正平調

時計2020/12/29

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作家の高村薫さんが、先日完成したばかりの本に印象的なメッセージを寄せている。「本書は、そこにひとときの『人間の時間』が流れたことを伝える小さな記念碑だ」◆聞き慣れない言葉だが、かみしめるほどに味わい深い。阪神・淡路大震災の被災地で草の根の支援を続けた「よろず相談室」の牧秀一さんのことだ。今年、25年間の活動を本と映像にまとめ、71歳で引退する◆続けた理由は一つしかない。ほっとかれへん。夜間高校の教師だった震災直後から避難所で困りごとの聞き役に徹し、人々の住まいが移っても、頼ってくれる人たちのもとに通った◆世間話に笑い、思い出話に涙する。復興住宅では毎月130世帯を訪ね、多くの死に直面した。残ったのは13世帯。「ほなまた近いうちに来るわ」。最後の言葉が牧さんらしい◆まちの再建を急ぎ、震災の傷痕すら分からなくなった被災地に、もっとも足りていない営みだったと高村さんは書く。大災害はいずれ来る。復興の長い道のりに必要なのは人に寄り添うこと。それを全国の人に伝えたい、と牧さんは願う◆書名は「希望を握りしめて」(能美舎)。503ページの大著だ。そのずしりとした厚みに、牧さんの25年が重なる。「人間の時間」の静謐(せいひつ)な重さである。2020・12・29

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