正平調

時計2021/02/14

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耳の奥に残る声、というのがある。岩手県出身の女優、長岡輝子さんの声がそうだった。標準語でなく、故郷の言葉遣いで、同郷宮沢賢治の作品を朗読した。その声が忘れられない◆ほんわかとして温かみのある声、おっとりとした語り口。幕末生まれという祖母の盛岡言葉を思い出し、参考にしたと話していた。賢治もこんな口調で自作を読んでいたのだろうかと、つい想像が膨らんでしまう◆耳に残る声というなら、この方は外せない。あるときは仏映画のギャング、またあるときは悪と立ち向かう米ドラマの刑事…。俳優森山周一郎さんである。吹き替えでさまざまな男を演じ、86歳で亡くなった◆低くて渋い声がずっしりと響いた。そこにひとつまみの艶をまぶした色気もあった。吹き替え相手のジャン・ギャバンやテリー・サバラスさんらには失礼ながら、作品名を見るとあの声が耳の奥から聞こえてくる◆宮崎駿監督のアニメ「紅の豚」で担当した主人公は、自分で自分に魔法をかけて豚になった空軍パイロットである。「飛べねぇ豚はただの豚だ」。きざと紙一重のセリフも、よわいを重ねた声だから落ち着く◆日本語の吹き替えは1955年に始まったそうだ。その歴史と歩んだ声。鬼籍の名優たちもきっと悼んでいる。2021・2・14

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