正平調

時計2021/03/25

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よわいを重ねると、じんわりと心にしみてくる詩だ。茨木のり子さんの「さくら」である。年譜に照らせば60歳代になって書かれた作品だろうか◆〈ことしも生きて/さくらを見ています/ひとは生涯に/何回ぐらいさくらをみるのかしら/ものごころつくのが十歳ぐらいなら/どんなに多くても七十回ぐらい〉◆もっとたくさん見てきたような気がするのに何と少ないことかと、茨木さんは思う。そうか人生で見るのはたかだか数十回かと思えば、この1回も心が弾む。神戸でサクラ開花と、神戸地方気象台が発表した◆数日前、10本ほどのサクラが植わる小さな公園を通ったら、うち1本だけがもう咲き誇って、輝いていた。その下に自転車を止め、生まれたばかりの柔らかい花びらを見上げる年配の女性がいた。みじろぎもせず◆心奪われる色とあらためて思う。茨木さんは〈あでやかとも妖しとも不気味とも〉と表した。原文にルビはないが〈妖し〉は「あやし」か。コロナ禍でこわばった心をもみほぐしてくれそうな色合いでもある◆作品の最後にも触れよう。詩は〈生はいとしき蜃気楼(しんきろう)と〉で終わる。桜吹雪の下、名僧のような心持ちになっての1行という。精いっぱい生きよ生きよ。舞い散るサクラがそうささやくような。2021・3・25

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