正平調

時計2021/04/19

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空襲で焦土になった姫路のまち中を蒸気機関車が走った時期がある。現在は再び、中心商店街になっている地域だ。昨秋、刊行された池内紀さんの短編集「昭和の青春 播磨を想(おも)う」を読んで知った◆当時の写真が載っている。焼け跡を走る黒い車体。線路を仮設して、がれきの処理を担わせた。多くの市民が汽車を見上げている。力強い姿に、励まされているようだ◆短編の一つでは汽車の活用を提案した青年を取り上げる。車両の修理もしたという。フィリピン・レイテ島で左脚を失い、傷病兵として帰還した。だが、実家の呉服店は火にのまれ、家族も運命を共にしていた◆戦地で一生分の苦労をし、実際より相当老けて見えたという。模型飛行機店を開き、すご腕で子どもの尊敬を集める。彼らと遊ぶときだけ、二十代の青年の表情を見せた。屈託ない笑い声が行間から響いてくる◆作家渡辺京二さんは著書「無名の人生」で、有名にならずに一生を終えたいと独白する。名前ではなく、仕事で評価してほしい、と。この青年も一部の人たちに鮮やかな印象を残しつつ、忘れられるはずだった◆無名の生をくっきりと浮かび上がらせる池内さんの筆力に感じ入る。呼び名の記憶ゆえ、主役は時にカタカナ書きだ。活躍がまぶしい。2021・4・19

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