正平調

時計2021/06/07

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「最後の一葉」という小説がある。主人公は肺炎を患う女性。「窓から見えるツタの葉が全て落ちたら私は死ぬ」と悲観する。それを聞いた老画家はツタがはう壁に1枚の葉を描く。嵐でも落ちない葉に励まされ、女性は生きる力を取り戻す◆草木が懸命に生きる姿は人間の命を鼓舞する。姫路市夢前町の樹木医、宗實(むねざね)久義さん(72)もそう考える。それゆえ社寺や庭園の名木だけでなく、民家の庭木も診ている◆ある時、岡山県美作(みまさか)市の夫婦から依頼があった。95歳の父が生きている間、マツを枯らさないでほしい。毎日、縁側で眺める大切な存在だ。マツ枯れで手遅れの状態だが、宗實さんは異例の延命治療を決意する◆普段は、回復が見込めない木の治療は断っている。家族の熱意に打たれ、注射などの治療を尽くした。お父さんは2カ月後に旅立つ。ひつぎにはマツの枝が入れられた◆物語はまだ続く。1年後、福島に住む娘や孫娘が津波にのまれた。見つかるまでマツを生かして、と夫婦は願う。宗實さんは枯死が迫る枝から種を採る。成長した苗が庭に戻った後、最後に孫の遺骨が見つかる◆「マツは残された力を振り絞って、家族の希望に応えたのだと思います」。命あるもの同士。思いが響き合うのは何ら不思議ではない。2021・6・7

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