正平調

時計2021/08/13

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友人からスイカをもらった作家の永井荷風が即興で詠んでいる。〈持てあます西瓜(すいか)ひとつやひとり者〉。目の前にでんと置かれた大玉とにらみ合い、腕組みをするその人が目に浮かぶ◆詩人の八木重吉に「西瓜を喰(く)おう」と題した一編があった。〈西瓜をくおう/西瓜のことをかんがえると/そこだけ明るく 光ったようにおもわれる/はやく 喰おう〉。かくも愛されてスイカもうれしかろう◆三角にとがった切り口は目にも涼やかで、かぶりつけば甘さと水分が口いっぱいに広がる。アフリカ原産というその果実が、日本に欠かせぬ夏の風物詩となって久しい◆「戦中・戦後の暮しの記録」(暮しの手帖社刊)に、女性の回想がある。先の戦争で夫が出征し、幼子2人を育てていたころ、農家で売られていたスイカの値を尋ねて驚いた。空襲のないところに逃れようと用意した75坪の土地代とほぼ同額ではないか◆「人の足元見て何よ」。腹を立てつつ、女性は思う。買って帰れば子や母はどれだけ喜ぶだろう。買わずに今夜、空襲で死んでしまったら-。ついに買ったスイカの味は、涙にぬれてよく分からなかったそうだ◆スイカをかじりながら、今は昔の夏の記憶に思いをめぐらす。その味は時として甘く、時としてしょっぱい。2021・8・13

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