正平調

時計2021/08/21

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1歳にならない次女が高熱にうなされている。夜中とはいえ、いますぐ医者を呼んでやりたいが、貧しい農家に金はない。「梨花(りか)よ、許せ」。母はつづった。作家の吉野せいである◆肺炎であったらしい。村医者に手遅れを告げられ、娘は眠るように亡くなった。「これが、梨花お前の、否人間一人の最後というものか」(「梨花」)。十分な治療も受けられず、あまりにふびんではないかと◆理不尽に泣いたせいの涙が、その女性の涙にも重なる。コロナに感染し、自宅で療養していた千葉県の妊婦である。体の異変を訴えたものの入院先が見つからぬまま早産し、赤ん坊は亡くなった。男の子だった◆対応にあたった各機関も懸命だったろうが、失われた貴い命の前ではどんな言い分も通らない。菅首相は「国民の命と健康を守る」、何度もそう言ってきた。その結果が、これか。繰り返される自宅療養中の悲劇を「人災」と呼ばずして何と呼べばいい◆自宅で生まれたとき、男の子は息をしていたという。お母さんはすぐに保健所に連絡をした。電話を握ったまま「お願い、早く、早く」と、どれだけ祈ったかしれない◆〈選ばれて選びてここに昨日来ぬ一つのからだ一つの命〉(佐佐木幸綱)。めぐり合えた一つの命だったのに。2021・8・21

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