2021/10/23 06:00
作家の藤沢周平さんは妻を亡くし、何年かのちに再婚した。その当時、幼稚園に通っていた長女の遠藤展子さんは口さがない人たちが言う「継(まま)母(はは)」の意味が分からず、当の母に尋ねた◆気後れすることなく、母は答えた。「ママハハっていうのはね、ママと母と両方だから、普通のママより二倍すごいママなのよ」。そうか、すごいんだ。展子さんは安心したと、あるエッセーで振り返っている◆心温まるそんな挿話を、今週の本紙発言欄を読んで思い出した。「連れ子をかわいがれない人は結婚するべきではありません」という大学生からの投稿で、母が2度再婚し、実父と2人の義父がいます、とある◆生活の変化に悩むこともあったが、それぞれの父が愛情をもって接してくれたことに感謝の念をつづっている。優しい若者なのだろう。やまぬ児童虐待事件に胸を痛め、なくなってほしいと文章は結ばれていた◆幼い展子さんが入院したときの話がある。毎日様子を見に来てくれる母に、無意識ながら心ないことを口にした。「お母さん、帰り道で涙ぐんでいたぞ」。父に叱られ、自分を思う母の気持ちに気づいたそうだ◆親になる、子になる、とはどういうことなのか。大学生の投稿と藤沢家の思い出エッセーにあらためて学ぶ。2021・10・23