正平調

時計2021/11/12

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三島由紀夫にファンレターを出したら、返信があった。「私は返事を書かない主義だけど、あなたの手紙があんまり面白いから」と。次に小説を書いて送ったら、こう返された。「どうしてこんなにつまらなくて下手なんだ」◆若き日の瀬戸内寂聴さんである。文豪、谷崎潤一郎とたまたま同じアパートに住んでいたときは、仕事部屋の前を通るたび「あやかりたい」とドアをなでた。語られる挿話の一つ一つに、愛らしい人柄がにじむ◆道ならぬ恋をした。幼子と夫を残して家を出た。文学の道に生きると決めた。「ペンを握ったまま死にたい」と常々口にし、人間を、女性を書き続けた小説家であり、僧侶である。寂聴さんが99歳で亡くなった◆人は本来、孤独なもの。寂しいから愛を求める。寂しいから他人の寂しさが分かる、と寂聴さんは説いた。朗らかな笑みとユーモアあふれる語り口に触れ、救われた、生きる力をもらった、という人は多かろう◆自らの死後、親しい人に読んでもらうつもりで句集を出版した。題名の「ひとり」は一遍上人の言葉「生ぜしもひとりなり/死するもひとりなり…」から付けたそうだ◆巻頭は秋の句である。〈紅葉燃ゆ旅立つ朝の空(くう)や寂〉。その人の旅立ちに、今はただ「寂」の一字を重ねる。2021・11・12

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