正平調

時計2021/11/26

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餞別(せんべつ)に米貨で5ドルくれた人がいた。「強制送還になる前に、せめて床屋ぐらいは行けや」と。1962(昭和37)年5月、堀江謙一さんは小型ヨットで独り、西宮港から米国を目指した◆「1週間は黙ってて」、周囲に告げての密出国である。だれもが無謀だと笑い、反対し、母は泣いた。93日目、サンフランシスコに到達した23歳の青年はこうつづっている。「お母ちゃん、ぼく、きたんやで」◆著書「太平洋ひとりぼっち」を久しぶりに読み返した。嵐も来れば、サメも来る。命懸けの航海にあって、ラジオからのジャズに、満天の星空に、熱い紅茶に力を得る。ほとばしる「生」の喜びが伝わってくる◆83歳になった堀江さんが来春、再び「ひとりぼっち」に挑むという。今回はサンフランシスコから西宮へ向かって帆を揚げる。「挑戦したいというマグマがたまっていた」そうで、成功すれば世界最高齢だとか◆昔旅したところ、過ごした町にもう一度行ってみたいと思うときがある。観光地ならたやすいが、冒険家の場合はそうもいかない。再訪とは自らの限界に挑むことでもあるのだろう。その気力、体力に恐れ入る◆「わたりたいから、わたった」。動機はそれだけだと60年前、堀江さんは語っていた。冒険は終わらない。2021・11・26

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