その漢字は見ての通り、「穴」の下で「鼠(ねずみ)」が息を潜めているが、いかんせん「鼠」が大きすぎる。隠してもだめだ、やめておけ、という戒めかもしれない。「改竄(かいざん)」の「竄」である◆文書の改竄を命じられ、必死であらがおうとした財務省近畿財務局の元職員、赤木俊夫さんは「最後は下部がしっぽを切られる」と書き残し、命を絶った。妻の雅子さんは国に損害賠償を求めて訴訟を起こした◆これまでずっと争う姿勢だった国がどうしたわけか、一転して責任を認め、約1億円の賠償に応じるという。唐突な幕引きがふに落ちない。裁判での真相解明を期待していた雅子さんは「ふざけるな」と語った◆お金のためではない。妻が求めたのは夫が追いつめられるに至った経緯の究明であり、さらに言えば夫の死に誠実に向き合ってくれる国の姿勢だろう。それなのに国は法廷からも真実からも逃げたように見える◆「恥」という字は「耳」に「心」と書く。〈心に耳を押し当てよ/聞くに堪えないことばかり〉。吉野弘さんの詩「恥」である。改竄という行為を恥じ、苦しんだ赤木さんの良心に触れ、その一編が胸をよぎる◆岸田首相にお願いする。ご遺族の心痛に耳を押し当ててほしい。こういうときの「聞く力」ではあるまいか。2021・12・17
