暮れも押し迫ると年末年始の冬休みに何を読もうかと思い巡らせる。今年、買ったものの手付かずのままの本、文学賞を取った話題の本、長い間気にかかっている大長編にもチャレンジしたい◆開高健さんのコラム「寝正月の快楽」によると枕元に魔法瓶、急須、せんべい。布団に入り、カイコのように読み進む。眠くなれば眠り、目が覚めればまた読み始める◆今日は何を手に取ろうか。開高さんは内なる声に耳を傾ける。「久しぶりにヘディンの『さまよえる湖』を読みかえしたいとせがむものがいたので、かなえてやる」。暖かい布団の中から辺境アジアの旅に出る◆正月ならではの極楽型読書の対極にあるのが、いわゆる「現場読み」だ。現地に赴いてその場所について書かれた本を精読する。希代のフィールドワーカーとして知られた人類学者梅棹忠夫さんが推奨していた◆梅棹さんが東南アジア学術調査隊の隊長としてインドシナ半島を旅したときも車の中で読んだ。「書いてあることは、よく頭に入るし、同時に自分の経験する事物の意味を、本で確かめることができる」という◆時は移り、今は電子書籍で古今東西の本が読める。現場読みには便利だが、開高さんなら寝床でせんべいをかじりつつ画面に見入るかどうか。2021・12・27
