やりきれない話である。大学入学共通テストの会場だった東大前で受験生ら3人を傷つけた高校生が、通う高校名やその偏差値を叫んでいたという◆東大の医学部を目指していたのに成績がふるわなかった、と逮捕時に話している。気持ちが不安定になって口走ったとしても、偏差値を口にしたというところに、少年の心の底でよどむものが見えそう◆2016年の4月、教育評論家桑田昭三さんの訃報記事が本紙に載っている。記事の末尾にこうある。「統計学の偏差値を学力判定に活用し、『偏差値の生みの親』と呼ばれた」。中学校教諭だった時、進路指導に悩んで考え出したと、何かで話していた◆広く知られるにつれ、偏差値は独り歩きしていく。思い込みを含めて書けば、桑田さんは数字が語るものを大事にしたかったのだろう。「よく努力をしたね」と褒め、「もう少し頑張ろうか」と励ますために◆新人時代の俳優津川雅彦さんは、名優で通った兄の長門裕之さんとよく比べられた。兄はすばらしいが、弟は「ド大根」だと。落ちこんでいると、大島渚監督が耳元で「うまいねえ」「長門よりうまいよ」。そんなひと言で自信ができたと振り返っていた◆褒める。励ます。そんな数字であってほしいと受験の季節に思う。2022・1・20
