今は京大iPS細胞研究財団の理事長を務める山中伸弥さんが、本紙の随想欄でこんな思い出話を書いてい
た。留学した米国で、研究でも人生でも大切にしたい言葉を教わったそうだ◆「Vision(ビジョン)& Work Hard(ワーク ハード)」。まずは長期的な目標を立てる。そして目標を実現させるため一生懸命に働く。そうありたいと願い、機会があれば若い人にも話す◆では、この若手研究者たちはどうだろうと心配しながら記事を読んだ。日本を代表する巨大研究機関、神戸にも事業所がある理化学研究所で、研究系の職員約600人が本年度末で雇い止めの恐れ、と伝えている◆「理系研究者受難の時代」との声もよく見聞きする。それだけ日本では、博士号を取っても大学や研究機関の門は狭い。山中さんが書くように目標が見つけられても、懸命に努力する場に恵まれないとつらい◆科学技術の分野で世界が注目した論文数ランキングというのがある。最新版を見れば、日本はインドに抜かれ過去最低の10位だ。研究者数が伸び悩む。研究費は足りず、打ち込める時間も少ないからという。そのうちノーベル賞は縁遠くなるかもしれない◆「科学技術立国」という誇らしい看板をぐらつかせてはいけない。2022・5・12
