正平調

時計2022/05/19

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写真を見るだけで、心ときめく。小さな岬の突端に、かやぶきの家がある。海を望むところには板張りテラス◆ノンフィクション作家の梯(かけはし)久美子さんは、このテラスであるじから話を聞いた。戦争体験を巡る「昭和二十年夏、僕は兵士だった」の取材である。あるじは言った。「この海は、サイパンにもレイテにも沖縄にも、つながっているんですよ」「僕はずいぶん、仲間を水葬にしたから」◆このほど98歳で亡くなった建築家、池田武邦さんである。海軍士官として、戦史に残るいくつもの海戦を体験した。後に東京帝大(現東大)で建築を学んで霞が関ビルなどを手がけ、超高層時代を引っ張った◆ところが50歳ごろ、コンクリートの建物から舵(かじ)を切る。無機質ではなく、自然と共生するものを、と。長崎県西海市の大村湾沿いに建てたかやぶきの家は、伝統工法に徹し、風土に合う九州産の木材だけを使った◆どこで話していたか、なにで書いていたか。テラスは真西を向いているので、春分と秋分には夕日が真正面に沈む。そこに身を置いて、季節の移り変わりを知る。自然に包まれることの心地よさに満ちている◆弟子たちが修繕費を募り、この家を守っているそうだ。目を細め、穏やかな湾を見つめる後ろ姿が目に浮かぶ。2022・5・19

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